芸能人ブログ 人気ブログ. 長い道中、ガソリンスタンドでの休憩で事件が起きます。ロベルトが与えたグアバジュースが原因で、アレルギー持ちのカミーラが喘息の発作を起こしたのです。しかもあろうことかロベルトは大事な吸入器をうっかり落として割ってしまい、カミーラの容態は悪化する一方。冒頭、エスカレーターを流れ降りてくる花嫁姿の干からびた老婆が映し出された時点で、すでに嫌な予感、いや、いい予感しかいたしません。登場人物たちの苦境、災難、絶望は、我々ゲス人間にとっての生きる糧でありますから。そんな予感をひしひしと感じさせる素敵なオープニングであります。詰まることろ、我々に自由意志などというものは存在しないということなのだろうか?決められたレールを、抜け道のない一本道を、永遠に続く階段を上下運動することしかできない、鏡のなかのマリオネット。与えられた回し車を死ぬまで回し続けるだけのハムスター生活。カミーラは発作によってそのまま死亡。成長したダニエルは自活したようで、お手製のつなぎテントでサボテンを煮て喰ったりしております。きついのはサンドラとロベルト。ともに35年前は40代だったと考えると、現在は80歳手前のそらもう立派なじじいとばばあ。彼のエレベーターへと乗り込んできた新婚カップルを道連れにし、新たな35年ループへと突入するために……。精神世界における35年ループのなかで、必死に生き続けようと闘う若者の活力が実体の幸福へとつながり、人生に絶望してただ自堕落に生きる中年の諦念が実体を不幸へと叩き落とす。この35年ループ内での中年と若者の生き方がそのまま実体の人生へとつながるというわけです。『ダークレイン』で観客のはるか斜め上を行く爆笑と混乱と恐怖を叩きつけたイサーク・エスバン監督が、世界的に注目されるきっかけとなった長編監督デビュー作『パラドクス』。『ダークレイン』で脳天かち割られたボクといたしましては、観ないわけにはまいりませぬ。となると、非常階段ルート同様に一本道ルートでも35年の時が経過しているのは必然です。しかし、長い年月を経て運命共同体となり、キテレツな宗教をともに信仰するまでになったマルコとオリバーに対して、こちらの囚われ人たちのその後は殺伐そのものなのです。その本質をかいま見せるだけで絶対につかませない謎の残留、スッキリしない残尿、残便感がこのイサーク・エスバンという監督の真骨頂であり、ひたすら性格悪いので素直な性格の人とはもの凄く相性悪いでしょうね。自他ともに認める性格ブスのボクとは相性抜群ですが。しかし解放されたのもつかの間、新たな名前と記憶を与えられて今度は中年として、若者、生贄とともに別のループに35年間閉じ込められるというわけなのです。それではなぜ彼らはこんな無慈悲な無間地獄に強制参加させられているのでしょうか?そんなふたりの日中カー○ックス映像の衝撃は並のAVでは太刀打ちできない破壊力。しかもサンドラはカミーラを失ったショックで廃人同様。そんなサンドラをゴミが散乱した車中で一心不乱に抱き続けるロベルト。喰って、寝て、廃人を抱き続けるだけの35年間。廃人同様のママが気の狂ったデブに抱かれ続ける光景は耐えがたいと、自活の道を選んだダニエルとロベルトは断絶しますが、ある理由によって再会しなければならなくなります。そう、ママが、サンドラが死んだのです……。落ち目の人間が過去の栄光を引っ張り出して話題作りをした商売っ気はここにはなく、イサーク・エスバンは天然で頭の狂った天才変態キチガイ斜め上監督だったということです。これはもう全面的に肯定するしかすべはありません。なんたって相性抜群ですからね。ソリッドシチュエーションスリラーに超自然的現象を付与した謎展開はなかなかの引きの強さで、この現象の解明と脱出がここから始まるのだな、と思いきや、舞台はいきなり転換し、旅支度を「キャッキャッ」と行う別の家族へとカメラはシフトしてしまいます。舞台は移ってとあるマンション。刑事のマルコに自宅へと踏み込まれたカルロスとオリバーの兄弟は、隙をついて非常階段から逃亡を図るものの、兄カルロスがマルコに足を撃ち抜かれて身動きが取れなくなり、絶体絶命の状況へ。しかし事態は思いもよらぬ方向へと流れます。同じようなループ現象に閉じ込められた人々を連続で映し出した構成、正直退屈でした。「もうそれはさっき一回観たよ!」って話ですよね。ここで冒頭のいい予感は悪い予感へとシフトするのですが、ボクはまだイサーク・エスバン監督の斜め上精神を甘く見ていたようです。人の幸福の裏側には常に他人の不幸があり、同じく不幸の裏側には幸福がある。誰かの犠牲の上に成り立っている自分の幸福。自分の不幸によって生み出される誰かの幸福。幸福と不幸は表裏一体。それが人の人生であり、抗えない運命であり、逃れられない因果である。しかし、そんな不条理な責務を無理矢理に押しつけられた彼らも黙って従うだけではありません。死ぬ間際にすべてを思い出した老人は、自分の名前を忘れるな、システムに負けるなと、ループ打開の希望を中年へと託すのです。この無間地獄をなんとか終わらせてくれと。彼らふたりが同時に思い出したある事実とは、この不可思議な現象を体験するのは初めてではないということ。同じようなループ現象に囚われた35年間を、自分たちはすでに一度経験しているというのです。いまとは別の名前で。そのことをさっきまでずっと忘れていたと。家族は予備の吸入器を取りに来た道を引き返しますが、ここでもやはり謎の爆発音と同時に不可解な現象が発生し、いくら車を走らせようが、逆走しようが、横道へとそれようが、この一本道から抜け出せない事態に。ここでもまた、謎のループ現象が発生したのだった……。ひたすらややこしい話で脳ミソよじれますが、つまりはこのループ現象は35年周期で発生していて、その対象となるのは中年、若者、そして生贄であり、生贄の死によりループが発動、35年後に中年が老人となって死ぬことにより、中年になった若者はループから解放される。若い頃は幸福で、年とともに不幸になっていく人生というのはやや画一的すぎるような気もしますが、これもまたより大きな存在によって運命を掌握されているかもしれない我々の人生を象徴化するためであり、何やら冷静に狂ったイサーク・エスバンの頭の中身がかいま見れるような気がいたします。それは人間の営みを、人生を補助するための大きなシステムのため。実体としての人間の人生を円滑に回すため、ある種の精神世界における存在として彼らの正と負のエネルギーが必要だったのです。どこかの誰かの人生のために回り続けるハムスター生活。指導員とともにイカダの上で35年ループを経験したルーベンは、指導員の死によっていったんはループを抜け出たものの、今度はロベルトという名の中年になってダニエルと一本道ループに囚われ、今度はロベルトの死によってダニエルが解放、しかしダニエルもマルコという名の中年刑事になってオリバーと非常階段ループにハマり込んだというわけ。『ダークレイン』のラストで次なる斜め上世界への伏線をばら撒き、勝手にひとりクロスオーバー世界を斜め上に向けてひた走るイサーク・エスバン。斜め上すぎて次なる展開を予測するのは容易ではありませんが、我々も必死に斜め上を凝視しながら彼の新作を心待ちにしておきましょう。さらなる斜め上を期待して♡意図的にゆがめた時系列、巧妙に張り巡らされた伏線を見るにつけ、象徴的に映し出されるハムスターの姿がこの奇妙な物語の本質と無関係だとはとても思えません。登場人物たちの運命を、我々人間の人生を象徴した記号としてだけではなく、もっと本質的な何か。キーとなるのは“ガメン”という名前。これはつまり、彼こそがすべての首謀者だと……。ロベルトは昔ルーベンという名の少年で、イカダの上で指導員とともに35年間のループ生活を経験したのだと。そしてマルコは昔ダニエルという名の少年で、35年間一本道のループ現象に囚われていたのだと。そう、実はマルコとダニエルは同一人物だったのです!非常階段の壁を覆い尽くすかのようにうず高く積み上げられた使用済み商品の数々。種類ごとに整然と並べられたそれらは狂気のコレクションのようであり、日々の営みの象徴であり、暇を持て余した積み木のようであり、35年という時間の重さに泣き笑いのような面様が。ここで巧妙に隠されてきた成長したダニエルの顔が初めて画面に映されます。どこか見覚えのあるその顔は、なんと非常階段ルートのマルコと瓜ふたつ!ここからこのふたつのルートがいよいよ混じり合い、怒涛の種明かしへと雪崩れ込んで我々の脳ミソをさらにグチャグチャにかき回すのです!「次のループへと突入しているはずなのになんで花嫁姿のままなんだ?」という疑問は残りますが、これは画的なインパクトを優先させたのだと思います。それか何かしらのイレギュラーが発生したか?なんにせよ、この物語が見事な円環を成しているのは必然だと思います。空間はループし続けるものの、無情にも時間だけは過ぎていたのですね。そんな非情な時間におけるふたりの生活を端的に表したショットの数々があまりに衝撃的で吹き出します。時間とともに供給され続ける自販機の商品と、兄カルロスのリュックの中身。はたしてイサーク・エスバン氏はデビュー時からどれだけ頭がおかしかったのか?その狂いっぷりを解き明かすためにも、今回はネタバレ全開で個人的な考察をしたためてみたいと思いますので、未見でネタバレ警察に所属する方はどうぞここらでお引き取りください。粗さもありますが監督の才気を感じさせるなかなかの良作で、ボクは好きですね。確かに発想の奇抜さに比して語りが稚拙な部分はありますが、なんでもいいから「観客の度肝を抜いてやろう!」という精神は称賛されてしかるべきだと思います。映画としての構造や設定がいまいち理解できないというのもこの手の映画の隠れた醍醐味で、だからこそ考察する楽しみがあるわけですよね。まあそれが正解しているかどうかは知ったこっちゃねえ!考えるのが楽しいんだ!というひとりよがりな娯楽なわけですけど(笑)。映画を観たらとりあえず感想とイラストを書く(描く)人畜無害な釘バット。ちなみにイラストはぺんてるの筆ペン一本によるアナログ描き。おそらくはエスカレーターループの次には列車ループがあり、そこに35年閉じ込められていた若者がイカダループにおける指導員となり、一本道、非常階段、ワンフロア、そしてまたエスカレーターへとつながる、この35年ループ自体がループ状につながった狂気の永久機関なのではないでしょうか?無限ループする世界に閉じ込められた人間たちを待ち受ける、非情な運命と驚愕の真相を描いたメキシコ製不条理スリラーです。「未体験ゾーンの映画たち2016」公開作品。この時間という地獄に押しつぶされたマルコは記憶に囚われた壁画絵師となり、非常階段の壁を自身のアート作品という名の落書きで埋め尽くす勢い。一転オリバーは若きエネルギーを持て余して筋トレに励む毎日で、ロン毛のムキムキマッチョマンへと変貌。実体としてのダニエル、マルコ、オリバー、ロベルトの人生が無音映像として流されます。ループ内における中年と若者の在り方とシンクロするように、若い頃は幸福で、年齢とともに不幸になっていくさまが。それが人生の摂理であり、必然であるかのように……。反抗期の少年ダニエルと、その妹カミーラ、母親のサンドラ、そしてサンドラの恋人であるロベルトは、サンドラの元夫が務めるホテルでバケーションをすることに。ダニエルは母の恋人であるロベルトが嫌いなようですが、久々の父との再会は楽しみにしておるようです。すべてを知り、老人の希望を託された中年。しかしおそらくはこれすらも大きなシステムのなかの一部。すべてを知りえてなお、眼前に現れた次なる扉になすすべもなく記憶を、想いを忘れ去り、躊躇なく扉を開いてしまう因果の恐るべき魔力。闘うことすら許されない呪縛。この新たな35年ループにおける役割は、カールが中年、新婦が若者、そして新郎が生贄となります。ここで冒頭の老婆が誰であったのかがとうとう判明するわけです。ホテルのワンフロアループを抜け出た彼女は、次にエスカレーターループへとハマり込み、冒頭の干からびた花嫁ばばあへと朽ち果てていくわけですな。出会いは敵同士でしたが、長い年月を通してふたりは運命共同体となり、オリバーがちゃんとマルコの介護をしている姿が泣かせます。下の世話も嫌がらず、空のペットボトルに封印したマルコのカチカチウ○コをこれまた整然と積み上げる姿には心が洗われますなぁ。つまり彼らは35年ループのみならず、その外側に広がるより大きなループ現象にも囚われた、永遠の囚人なのだと思います。現実の世界で暮らす実体としての自分のためという話もある種の方便であり、彼らはすべての人間の人生に奉仕する終わりなき奴隷なのであります。ちなみに次作の『ダークレイン』で、この『パラドクス』の種明かし的な描写がチラッと映り込み、実は世界観を共有する作品であることが示唆されております。『パラドクス』のループを作り出したかもしれない存在と、さらにその外側に広がるより大きな存在。やがて兄カルロスは足の傷により死亡。残されたオリバーとマルコも絶望的な状況でしたが、不思議なことに階段に設置された自販機には食料や水が自然と補充されており、喰うには困らんわけです。ここから抜け出すことはできないが、餓死することもない……。突然現れたパトカーにすべてを捨てて乗り込み、刑事マルコになったダニエル。同じくエレベーターへと乗り込み、カールという名のベルボーイになったオリバーは、用意された赤い手帳に書かれた指示どおり、新たなループを作り出すため操り人形のように行動します。死期の迫ったマルコとロベルトは同時にある事実を思い出し、それをオリバーとダニエルに必死に伝えようとします。その必死感とふたりのシンクロ率がまた混沌としており、ただでさえややこしい話をさらにひっかき回し、ちゃんと説明する気があるのかと楽しくなってきます。謎の爆発音がしたと思ったらすべての扉が開かなくなっており、しかも9階から1階に降りてもまた9階に逆戻り。9階から上に登っても結局は9階へとたどり着いてしまう、不条理なループ現象へと取り込まれてしまったのです。一本道ルートが絶望に支配されて暗転後、舞台はまた非常階段ルートへと戻るのですが、いきなり映し出されるのは死にかけの爺さん。なんと驚くことに、この爺さんは刑事マルコの成れの果て。マルコとオリバーはあれから35年もこのループ空間に閉じ込められていたのです!
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